Cross Talk Story | 02

「菊水」の進化する
空間デザイン

「菊水」を舞台に継承し、
進化していく空間デザインとは

A.N.D. 乃村工藝社 エグゼクティブ クリエイティブディレクター 小坂 竜

BALNIBARBI DESIGN STUDIO エグゼクティブ ディレクター 中島 邦子

A.N.D. 乃村工藝社
エグゼクティブ クリエイティブディレクター
小坂 竜

伝統を破壊するのではなく、「見立て」を変えることで今までの情緒を残しながら空間をデザインしていく。時代に合わせた進化が新しい「菊水」の“魅せ方”になったとき、空間としての間口はとても広くなるのです。(小坂竜)

対談

唯一無二である「菊水」らしさをデザインしていくこと

小坂:「菊水」に初めて訪れたのは半年ほど前でした。「菊水」が過ごしてきた歴史の中で、変わらないことで時代に取り残され劣化してしまった部分と、京都ならではの素晴らしい部分が共存している印象を受けました。 広大で優美な庭園や建物など「菊水」が持つ要素は、新たにゼロから創り出すことなんて、絶対に不可能です。だからこそどういう風に手を加え、新しい空間にデザインしていくのか、がテーマになりますが、残していくべきところと変わるべきところを明確に分けています。「菊水」が重ねてきた時間や面持ちはもちろんのこと、残すうえでの“魅せ方”を特に意識しています。

㈱バルニバービ
BALNIBARBI DESIGN STUDIO
エグゼクティブ ディレクター
中島 邦子
対談

時代の声を聞き、進化させていくこと

小坂:一番大きいのはエントランスで靴を脱がないスタイルにしたことです。「菊水」は旅館ですし、下足番の方もいて、開業当初よりゲストに靴を脱いでいただきお出迎えをしていました。それを靴のまま上がるスタイルに変えました。一種の旅館の“行為”としては破壊していますが、エントランスにおけるゲストをお出迎えする気持ちは一つも変わらないのです。

中島:レストランでも旅館でも、来てくださるゲストがあってこそ。残していくべきといっても、手を加えずそのまま残すのではなく、今の時代のライフスタイルやゲストの要望に合わせて変わるべきだと思います。昔は、エントランスで靴を脱がないと、その旅館の情緒がわからなかったのかもしれません。けれども私たちは、時代の変化やゲストの要望に合わせて、靴を履いたままでも同じ情緒感を味わえる空間にすることを考えました。

2階のダイニングはお座敷だったので、畳がひいてありました。そちらも畳をはつり、靴であがれるようにしています。「菊水」にお越しくださるお客様の中には、お座敷の需要ももちろんあるかもしれません。けれどお食事にいらした方にとっては、靴を脱ぎ食事処に行くという行為はなかなかハードルが高いですし、畳で正座してお食事をする旅館もあまり見かけなくなってきています。ですからお昼や夜のお食事はもちろん、ご宴会でも利用できる多用途なフローリングのスペースにしています。

「菊水」らしさの表現に欠かせないこと

小坂:エントランスのように行為として変わっていくものはありますが、そこにある情緒は残しています。それが新しい「菊水」の“魅せ方”となった時に、今まで敷居が高いなと感じて来られなかったゲストが来るようになると思います。例えば南禅寺のお散歩帰りに、お茶だけ飲んで帰られる、とか。伝統を破壊しているように見えますが、実は間口をものすごく広くしているのです。

中島:小坂さんは上質でコンサバティブ、つまり洗練された上質な空間に美しく見える要素をおいていき、自然に空間と共存していくような、空間デザインを得意とされているなと思います。またそこが時代のトレンドに左右されない、ずっと後世まで残っていくような場になっています。ここ「菊水」も古くからの伝統や積み重ねてきた歴史をそのまま継承していくのではなく、小坂さんの得意とする上質かつコンサバティブな、和を基調としながらもTHE 和テイスト、ということではなく、どの時代にもいつも新しい、モダンなスタイルで、今までの情緒を残している空間になると感じています。

小坂:そうですね。時代を取り入れたスタイルの変化という点では、客室やお風呂、洗面所といった水回りを大きく変えました。小さかったスペースは、壊して壊して大きくしました。日の光が差し込み、明るくて、広く、そこで寛ぎを感じる時間を過ごせるような。当初作った時の概念からは大きく変えている部分だと思います。

中島:そうですね。料理旅館として創業した当時とはライフスタイルも大きく変わっています。昔は陰の場だったかもしれませんが、今はバスルームやお手洗いで過ごす時間も長くなりましたしね。 寝るためだけの部屋だった場所が、時間を過ごす場所として生まれ変わる。客室が単に泊まるという概念から、時間を過ごす場所という概念に変化していったのだと思います。

小坂:今回増設した縁側も同じことです。レストランになるスペースは、元はお座敷で、窓越しに庭を見ることができるだけでした。庭の情緒や心地よい風を感じながら食事やお茶ができる場所として、縁側のテラスをつくりました。古い日本家屋の中にカラダを合わせてとじこまるのではなく、庭と一体になれるような風通しのいい新しい要素になると思います。

中島:小川儀兵衛さんが造られた当初からは、だいぶ庭も劣化していたのではないかなと思います。お庭の手入れももちろんですが、小坂さんのおっしゃるように、単に庭を見学するのではなく、カラダで風景や気持ちよさを感じる場所であってほしいですね。

庭園

「見立て」の変化と新たな「菊水」らしさを生むこと

小坂:デザイン的にはこれから出てきますが、ファブリックやアートのセンスは従来の京都におけるリノベーション事例とはテイストが大きく異なります。バルニバービさんが今まで創り上げてきたカフェを見てもそれは一目瞭然。ファッション性、洗練された感性や上質さ、僕が思っていることとうまくミックスして、今までに見たことない空間を目指しています。

中島:京都にある老舗旅館や小坂さんがおっしゃるようなリノベーション事例からみても、それぞれがいいところはたくさんあります。でも「菊水」は単に古いから改装します!ということではなく、リファービッシュ、つまりハード面の修理・再整備のみならず、イメージを大きく変えていくような概念を核にもっています。ですから空間設計は大きく変わらずとも、家具やラグ、アートなど一つ一つの選び方も全く異なるものになっていきます。
京都が持つ伝統のイメージ、例えばししおどしや灯篭なども情緒があって素晴らしいです。ただ、私たちはその様々な“イメージ”がもつ情緒を残しつつ、モダンでコンテンポラリーなものを置いています。

小坂:そうですね、ある種「見立て」が大きく変わっていると思います。和空間だからこれ、京都だからこれ、ではなく。色合いでもそうですね。旅館だから温かみのある暖色系の色を使用したほうが、旅館らしいイメージはでるかもしれないし、そういう事例も多くあります。ですが今回はブルーグレーやベージュのオーク系とか、ペールトーンの色彩を基調としています。
いい意味できれいな濁りを持つ色彩をベースに、家具のフォルムやアートのオリジナル性で空間にアクセントを出しています。ファッションに近いかもしれませんね。

中島:そうですね。色として目立つ原色やケミカルなビタミンカラーは使わず、でもヒップな、見た時にテンションがあがるような家具やアートばかりですよね。和モダンな家具はだいたい相場がきまっていますが、けっこう斬新なものを選びました。

小坂:色に限らず、お互いが「菊水」で表現したいイメージが近しいからこそ、中島さんの持つファッション性と僕がもつコンサバティブな概念が融合した時に何が生まれるのか、「菊水」を彩る家具やアート、そこに生まれる空間が想像以上のものになるのがとても楽しみです。

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